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東京地方裁判所 昭和56年(特わ)2493号 判決 1982年6月09日

本店所在地

東京都江戸川区東葛西九丁目三番一号

日本ロール製造株式会社

(右代表者代表取締役青木活與)

本籍

千葉県市川市宮久保四丁目三八六番地

住居

千葉県市川市宮久保四丁目一一番二号

会社役員

青木活與

昭和三年一月二五日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官江川功出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人日本ロール製造株式会社を罰金二億円に、被告人青木活與を懲役二年六月にそれぞれ処する。

被告人青木活與に対し、この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人日本ロール製造株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都江戸川区東葛西九丁目三番一号に本店を置き、製鉄用機械・圧延機・各種ロール・合成樹脂成型品・鋼材等の製造・販売を目的とする資本金三億八、五〇〇万円の株式会社であり、被告人青木活與は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人青木は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、期末たな卸及び売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五二年九月二一日から昭和五三年九月二〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一三億四、八八四万九、四一〇円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、確定申告書提出期限の延長処分による申告書提出期限内である昭和五三年一二月二〇日、東京都江戸川区平井一丁目一六番二号所在の所轄江戸川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四億八、三九八万七、四二四円でこれに対する法人税額が一億六、九二一万五、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第九四号の1)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五億一、五一六万〇、五〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額三億四、五九四万四、八〇〇円を免れ、

第二  昭和五三年九月二一日から昭和五四年九月二〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一六億六、一六二万三、四九〇円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、前記期限内の昭和五四年一二月一〇日、前記江戸川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七億一、六五三万一、二七九円でこれに対する法人税額が二億六、〇六二万四、六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の2)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額六億三、八六六万一、四〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額三億七、八〇三万六、八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人青木の当公判廷における供述

一  第一回、第三回及び第四回公判調書中の被告人青木の各供述部分

一  被告人青木作成の昭和五七年二月二六日付上申書

一  被告人青木の検察官に対する供述調書七通

一  収税官吏の被告人青木に対する質問てん末書

一  青木正道、北爪弘道(二通)、高中保(昭和五六年七月二〇日付、二三日付)、鈴木弘之及び田中早苗の検察官に対する各供述調書

一  検察官、被告会社代表者、被告人青木及び右両名弁護人作成の合意書面二通

一  収税官吏作成の社長勘定調査書

一  検察官作成の捜査報告書

一  江戸川税務署長作成の証明書

一  東京法務局江戸川出張所登記官作成の昭和五六年一二月二二日付の登記簿謄本

一  押収してある法人税確定申告書二袋(昭和五七年押第九四号の1及び2)

(補足説明)

一  検察官は、別紙(二)修正損益計算書中、勘定科目番号<7>「製造経費及び一般管理費」の借方欄「当期増減金額」欄の金額は、裁判所の認定した七八五万円ではなく、七六五万円である旨主張するので、この点について検討するに、(なお、仮に、検察官主張のとおり、同欄の金額が七六五万円であったとするも、後記のように、ほ脱税額には差異を来さない。)、右の違いは、結局、被告会社が、原料の仕入先である船橋製鋼株式会社の担当取締役である販売部長鎌田両行に対し、金額二〇万円の商品券を供与したものと認定できるか否かによるものと思われるところ、被告人青木は、当公判廷において、昭和五四年三、四月ころに、被告会社の製鋼事業部長北爪弘道とともに、千葉県下の右鎌田方自宅を訪れ、ビレットの円滑な販売、納入方を懇請した際、ブランデー(カミユ・ナポレオン)一本及び金額二〇万円の商品券一箱を持参し、これを同人に手渡した旨述べている。これに対し、右鎌田は、検察官に対し、ビレットの販売を頼みに来た被告人青木から、ブランデー一本を受け取ったことは認めるが、金額二〇万円の商品券を受け取ったことはない旨述べていて、双方の供述が対立している。

そこで、検討するに、被告人青木の右のような供述は、捜査段階ではなく、当公判廷において初めてなされるに至ったものであるが、その理由として述べるところは以下のとおりであって、すなわち、捜査段階では、相手に迷惑がかかると思って黙秘していたものの、公判廷においては、弁護人の勧めもあり、また、何よりも真実を述べることが必要であると考えるに至ったので、右のような供述をしたものであるというのであり、この供述は、その供述態度等に徴し、十分首肯できるものと認められる。また、被告人青木が当公判廷において述べるに至った右鎌田以外の者に対する現金等の供与についても、その後の検察官の捜査により、それがほぼ真実であると認められるに至っており、被告人青木が、右鎌田に対する供与についてのみ虚偽の供述をしているものとは認め難い。併せて、右鎌田方には、被告会社の社長である被告人青木自らがビレットの販売方を懇請して訪れているが、その際の持参品がわずかブランデー一本であったとは致底考えられないこと等の事情を考慮すると、被告人青木の前記弁解供述は十分に措信することができるものというべく、検察官の右主張は採用することができない。

もっとも、関係証拠によれば、前記供与は被告会社の鎌田個人に対する贈答と認められるところ、この支出は、租税特別措置法六二条四項(当時施行のもの)に規定する「交際費等」に該当すると解するのが相当である。しかし、被告会社においては、右支出にかかる当昭和五四年九月期において、すでに交際費損金算入限度額を超過しているので、結局、以上の金額を織り込んだ計算処理は、別紙(二)修正損益計算書勘定科目番号<7>及び<38>の各欄のとおりとなり、検察官作成の捜査報告書(甲15号証)別紙4修正損益計算書の同各欄より更に右支出と同額を増額することとする。

二  なお、弁護人は、青色申告承認の取消益については、被告人青木にほ脱の犯意がなかった旨主張するが、前掲各証拠によれば、被告人青木は、本件各犯行時、そのほ脱行為により青色申告の承認を取り消されるかもしれないことを十分に認識していたものと認められるから、弁護人の右主張は採用することができない。

(法令の適用)

被告人青木の判示各所為は、いずれも、行為時においては昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条により、軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役二年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人青木の判示各所為は、被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により、判示各罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金二億円に処することとする。

(量刑の事情)

本件は、判示のとおり、丸棒等の販売を業とする被告会社の代表取締役社長である被告人青木が、会社の業務に関し、昭和五三年九月期及び同五四年九月期の所得額合計約三〇億一、〇〇〇万円中、約一八億一、〇〇〇万円を隠匿し、所得額が合計約一二億円である旨の虚偽の過少申告をして、両期の法人税額合計七億二、〇〇〇万円余を免れたという事案であって、そのほ脱額は極めて多額であり、ほ脱率を約六三パーセントに及び、他方、所得申告率は、わずか約四〇パーセントにしか過ぎない。加えて、本件各犯行に際しては、被告人青木自らが脱税を指示し、所得の隠匿を部下に命じ、あるいは裏金(機密費)の捻出を求めたりしているのであって、同被告人が本件各犯行の中心人物であると認められること等の事情を考慮すると、被告人らの本件刑事責任は重く、なかんずく被告人青木については実刑に処しても決して不合理とはいえない事案である。

しかしながら、翻って考えるに、被告会社は、昭和八年に被告人青木の亡父運之助が設立したいわゆる同族会社であり、被告人青木は、これを昭和四九年一一月に兄青木基信から引き継ぎ、以来同社の経営に専念し、幾度かの不況の危機を乗り越えて今日に至ったものであって、その間、本件以外に被告人青木の関与による脱税の事実は認められず、本件各犯行は、ひっきょう、昭和五三年生び同五四年にたまたま好況に恵まれ、多額の利益を上げたことから、これを来るべき不況に備えて社内に留保しておこうと考えたことから犯した犯行であり、確かに、被告会社が同族会社であるが故に、会社の利益はつまるところ株主(二五パーセント出費)である被告人青木の利益であるという面があることは否定し得ないが、しかしながら、被告人青木の本件各犯行の直接の動機は、主として従業員約三六〇名を抱える被告会社の来るべき不況等における倒産を防止することにあったのであり、隠匿した所得も自己のために使用する意図はなかったものと認められる。更に、被告人青木が両事業年度にわたってたな卸し除外の方法により隠匿した所得額は、巨額ではあるが、被告会社にとっては、原料のビレット消費量約一か月分にも満たない。こうした意味においても、ほ脱額の大小は法人の規模に応じて相対的に評価すべきものといえる。また、売上除外によるほ脱額は三、四〇〇万円余に止まり、残余は期末たな卸除外によったもので、手段において、それほど悪質であったとは認められない。加えて、被告人青木は、本件発覚後、直ちに修正申告を行い、本税、重加算税を納付し、また、会社のために使用した裏金(機密費)約一、〇九六万円についても、これをすべて自己の仮受金として処理し、会社に返済している。被告人青木にはこれまでなんらの前科前歴もなく、現在では自己の軽率な行為を深く反省しており、今後は会社の監査体制を厳しくするとともに、同社の健全な発展に務める旨述べ、実兄で代表取締役会長である青木基信らによる監視も期待できないではない。その他諸般の事情を考慮すると、被告人青木に対しては、その刑責重大ではあるが、今回に限り、その刑の執行を猶予するのが相当であると思科される。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 原田敏章 裁判官 川口政明)

別紙(一) 修正損益計算書

日本ロール製造株式会社

自 昭和52年9月21日

至 昭和53年9月20日

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

日本ロール製造株式会社

自 昭和53年9月21日

至 昭和54年9月20日

<省略>

別紙(三)

税額計算書

日本ロール製造株式会社

<省略>

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